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東京高等裁判所 昭和39年(く)91号 決定

主文

原決定を取消す。

被告人菅沼勝に対する詐欺被告事件についてなした勾留は、昭和三九年六月二一日から期間を更新する。

理由

本件抗告申立の理由は、原審検察官森保名義の抗告申立書記載のとおりであり、その要旨は、原決定は、本件勾留は左記のうち(九)の理由(本件について禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたものである。)により、なおこれを継続する必要があると認め、更新をしたものであるが、右は刑事訴訟法第三四四条に該当することを示したものと認められるところ、同条に「禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつた後は、第六〇条第二項但書の規定は適用しない。」と定めているのは、右の場合には勾留更新の回数の制限を解除することを趣旨とするに過ぎないものであつて、禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたこと自体が独立して同法第六〇条第二項本文にいう勾留更新の理由とはなり得ない。勾留更新の理由には、少くとも刑事訴訟法第六〇条第一項各号に該当する勾留理由の一が引続き存続することを明らかにすることを要するものであるから、原決定は同法第三四四条及び第六〇条二項本文の解釈を誤つた結果、理由不備の違法がある。そして被告人には現在少くとも、同法第六〇条第一項第三号の、被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるから、原決定のうち前記理由(九)を、同(三)(逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある。)及び(九)(本件について禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたものである。)の理由に変更することを求めるため、本件抗告に及ぶと謂うにある。

よつて、所論に基き本件記録並に被告人に対する詐欺の本案記録を調査して考察すると、被告人は昭和三八年一一月一三日詐欺被告事件により東京地方裁判所に起訴され、勾留中のところ、同三九年四月二三日保釈釈放されたが、同年五月三〇日同裁判所において懲役四年の判決を受け、右保釈の効力を失い、即日収監されたものであるところ、原裁判所は右判決宣告後である昭和三九年六月一三日、被告人について禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたことを理由として勾留更新の決定をなしたこと所論のとおりである。ところで、勾留更新に関し、刑事訴訟法第六〇条第二項本文は「勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。」と規定する、按ずるに、勾留更新が許されるのは、同法第六〇条第一項各号所定の勾留理由、及び勾留を継続することの必要性が存在し、且つ、勾留更新の回数制限に触れない場合であることを要すると解する。そこで、勾留更新決定に附すべき理由は、どの程度であることを要するかについて考究するに、旧刑事訴訟法第一一三条は「勾留の期間は二月とす特に継続の必要ある場合に於ては決定を以て之を更新することを得」とあつたのに対し、刑事訴訟法第六〇条第二項本文が「特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。」と規定した文意からすると、勾留継続の必要性のあることの外、同法第六〇条第一項各号所定の勾留理由の存在することを具体的に示すことを要求するものと解するのが相当である。ところが、原決定が理由として掲げる(九)の理由は前記のとおり、同法第三四四条適用の結果、勾留更新の決定の回数制限が解除されたものであることを示すに止まり、勾留理由の存続することを明らかにしたものとはなし難い。従つて、原決定は刑事訴訟法第六〇条第二項本文を誤解した結果、理由不備の違法があるものという外なく、検察官がその是正を求める本件抗告は理由があると謂わなければならない。ところで、本案記録に現われた被告事件の罪質、態様、原判決が言渡した刑、並に被告人の性行、経歴等に照らすと、被告人には逃亡し、又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があり、勾留を継続する必要があると認められるので、刑事訴訟法第六〇条第一項第三号、第三四四条、第四二六条第二項に則り、原決定を取消し、当裁判所において更に主文のとおり決定する。

(裁判長判事 渡辺好人 判事 目黒太郎 深谷真也)

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